koti


 電車の窓からは、七色の景色が見えた。右から左に、流れてゆく緑色、赤色、橙、黄色、……その他の色んな色。
 電車は次の駅に停車した。短いアナウンスが流れ、扉が変な音を立てて閉まったと思ったら、もう一度開いて、駆け込み乗車はお止めください、と少し苛々した声で駅員が怒鳴るのが聞こえた。
 隣に座る君は、うとうとと首を上下に揺らしている。時折はっとしたように目を開いては、こちらを見て恥ずかしそうに、はにかんだ。おれは「疲れてるんなら寝てていいよ、着いたら起こすから」と小さな声で耳打ちする。そうしたら君は安心したように一瞬で眠りに落ちた。
 10年ぶりに戻って来た、おれの生まれた町。何もかもが懐かしくて、ほんの少しだけ変化していたことに、どうにも落ち着かなくて、おれも疲れているはずなのに、うたた寝すら出来ない。
 ここに戻って来ていることは、昔なじみは誰も知らない。だから誰にも会う予定はない。ただただ君と一緒に、この町をもう一度だけ歩きたくて、我が儘を言ってほんの数日だけ、滞在を決めたのだ。
 今のおれを見て、昔の友達は気付いてくれるだろうか。背も伸びたし、くせっ毛もましになったし、それにおれの目は随分と荒んでしまっていた。あの頃の面影は、残っているのだろうか。
 おれは隣に眠る君を見る。既に熟睡しているようで、おれの肩にもたれ掛かっている。きっと起きた途端、焦って謝るんだろうな、と想像すると可笑しい。君はなんにも変わっていない。狡いな。おれはこんなにも変わってしまったのに。君は今でもおれを優しく見てくれるし、一生懸命でまっすぐで、時々ピントのずれたことを仕出かして、それすらも愛おしい。おれは誰にも見えないように、君の手を軽く握りしめた。君は小さく身じろぎをしたまま、やっぱり動かない。
 電車は、その次の駅に停車した。次の駅が目的地だ。
「獄寺君、起きて、次だよ」
 そう囁くと、肩をぶるりと振るわせて、うっすらと目を開ける。長い睫毛が瞳を隠したまま、おれの顔を見つめる。薄灰色の綺麗な瞳が、夢と現を交互に映している。まだ半分寝ているなこれは、そう思って、君の目の前に手のひらを走らせた。
「ちゃんと起きてー、寝ぼけない」
 ふあい、と欠伸混じりに返事をして、おれを見続ける獄寺君は、ふわりと、とても幸せそうに笑った。
「ああ、10代目、変わってないっすね、その顔」

koti:家

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