100 love letters

 前略
 これが最後の手紙になります。
 僕はそこへは戻りません。
 その家は、しばらく使うことができます。
 一年分、先に家賃を支払っているのです。
 だからあなたが好きに使ってくださって結構です。
 何か困ったことがあったら、管理責任者まで連絡してください。
 (06ー××××ー××××)
 もちろん家を空けてくださっても構いません。
 その際は、ポストにでも鍵を入れておいてください。
 留守の間、大変お世話になりました。
 ありがとうございました。
 それではさようなら。


    99

 最後に届いた手紙の中身に、キョンは愕然とした。
 なんて無責任な話だ!
 衝動的に手のなかのものを丸めて捨ててしまいたくなった。
 しかし開封する前から、キョンには予感はあったのだ。この手紙のなかに、別れの言葉が綴られていると。
 封筒には乱筆ながらもきちんと日本語で記された宛先と、見覚えのある消印。
 古泉は今、日本にいる。
 間違いなくこの手紙は、古泉が帰国後、この付近から投函したものだ。それなのにこの家にまっすぐ帰ってこなかったということは、古泉は端から、キョンに顔を見せるつもりもなかったのだろう。
 もうすでに古泉は、この町を離れてしまったのだろうか。それともまだ、この町のどこかで暮らすつもりなのだろうか?
 キョンはぐちゃぐちゃになった頭で考える。焦りと苛立ちで、じっとしているのもつらい。誰でもいい、どこでもいいので、古泉の情報を知る人物はいないかと、部屋中をひっくり返した。それらしき住所や電話番号の断片でもありはしないかと、本棚や押し入れを隅から隅まで探しまわった。
 いつの間にか日は落ちて、部屋は薄暗くなっている。どうりで目が見えづらいわけだと、キョンは一度手を止め電気をつけにかかった。
 夜の湿気は蒸し暑さを生み、キョンはすぐに汗だくになった。よく考えてみればこの家には、空調の類いが一つもない。今までどうやって、うだるような暑さの夏、そしてこごえそうな寒さの冬を越してきたのか、あれほど毎日居着いていたというのに、一向に思い出せなかった。
 今までどれほど、この部屋の何をも見ていなかったのかを、キョンは思い知らされた。
「くそ、あちい」
 仕方なく、夏前にコンビニでもらったうちわをあおぎながら、キョンは押し入れで見つけた書類の束を一つ一つ紐解いてゆく。『機関』関係の書類でも見つかればと考えてのことだったが、どうやらほとんどを処分してしまったらしく、連絡先の記されたようなものは一つとしてなかった。だいたい、『機関』がなくなったらしいのはもうだいぶ前のことだ。今更連絡先が見つかったところで、それが今もって通じているとは考えがたい。
 それでも根気よく確認しているうちに、クリアファイルの山から、小さな封筒がたった一つだけ挟まれたものを発見した。どうやらそれは手紙らしく、やけに気になって差出人を見ると、『森園生』とあった。すぐにキョンは、あの謎に満ちた笑みのメイド姿を思い出す。なかを見るのはためらわれたが、そんなことを言ってもいられない。心の中でごめんなさい、と呟きながら、キョンは封筒を開いた。

 古泉へ
 おひさしぶり、元気にしていますか。
 わたしたちが会わなくなってしばらく経つけれど、
 あなたのよくできた笑顔は、いつだってすぐに思い出せるわ。
 あなたは『機関』の中でも一番年若かったから、
 皆があなたを気にかけていました。
 特に新川の過保護ぶりには、見ていて面白いものがあったわ。
 あなたが普通の、年相応の学生に戻ることを、
 心の中では皆ずっと望んでいました。
 だから今、わたしたちは念願叶ったことが嬉しくてなりません。

 『機関』の一部メンバーで設立した会社は、滑り出し上々です。
 あなたも就職活動の際は、ぜひ面接にいらっしゃい。

 森園生

 P.S.困ったことがあれば、いつでも連絡をください。

 丁寧な楷書体で書かれた手紙の最後、十一桁の電話番号が走り書きのように記されている。キョンはそれを素早く携帯のメモリに登録した。そうしてすぐに手紙を閉じた。そうしなければいけないような気がした。
 いつごろ届いた手紙なのかは分からないが、まだこの番号は通じているのだろうか。一瞬のためらいのあと、キョンは登録したばかりのメモリを呼び出し、通話ボタンを押す。
『はい』
 何度目かのコール音のあと、聞こえてきた声は、キョンの記憶のなかのそれと、まったく変わっていなかった。
「あっと、もしもし」
『ああ、あなた……涼宮さんの』
「え、」
 その後すぐに名を言い当てられ、キョンは驚きを隠せなかった。動揺が声に出てしまったが、そんな些細なことを気にしていられない。
「よく分かりましたね。突然すみません」
『いいえ、きっと連絡があると予想していました』
 その言葉に、キョンはもう、驚きを隠そうともしなかった。いい加減、何を言われても驚かないよう、せめて心の準備は万端にしておこうと思ったほどだ。キョンは気を取り直し、本題を切り出した。
「古泉が、いなくなったんです」
『存じております』
「どこにいるのかも?」
『ええ』
「教えてもらえませんか」
 そこで会話は途絶えた。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな溜め息だけが、電話越しに届く。
「あの」
『——明日、時間はありますか』
「え、はい、大丈夫っすけど」
『それでは直接お伝えします。明日十八時――』
 森さんはこの地域で一番大きな駅を指定した。
『そこの東口、改札の前でお待ちしております』
 彼女の断定口調は、断る隙を与えない。そもそも断るつもりはなかったが。
「分かりました」
 だからキョンはそれだけ言って、電話を切った。
 そうして頭をかきながら、湧き出す疑問を口にする。
「いったいどういうことなんだか」

 明くる日、指定された時刻、指定された場所にキョンは立っていた。さすがにターミナル駅ともあって、帰宅ラッシュ時刻の改札付近は多くの人でごった返していた。これでは待ち合わせ相手を見つけるのが難しくてかなわない。重ねて、何年かぶりに顔を合わせる人なのだ。ただでさえ服装で印象の変わりやすい人である、キョンは自分から相手を探すのを早々に諦めた。おそらく相手のほうが確実に、キョンを見つけ出してくれるだろうという確信もあった。
「お待たせしました」
 予想通り、声を掛けてきたのは森さんのほうからだった。
「ああ、いえすみません、突然連絡を入れてしまって」
 言いながら振り向くと、えらい美人がそこにいた。何せキョンの知る彼女はといえば、メイド姿と、スーツに身を包んだキャリアウーマン然とした姿、それだけである。だから振り向いた先にいた彼女の品のいい、それでいてカジュアルな姿に目を奪われ、キョンは数テンポ反応が遅れた。
「おひさしぶりですね。こちらこそ急にお呼びだてしてしまって申し訳ありません」
 彼女はそう言って頭をさげる。ストレートのロングヘアが、動きにあわせてさらさらと揺れるのがうつくしい。それからキョンを正面から見据えると、麗しき笑みを浮かべた。
「それでは、まいりましょう」
 彼女は迷いなく歩きはじめる。あわててキョンはその後を追った。

「わたしの携帯番号は、どうやってお知りになりましたか」
 道中、横に並ぶ森さんはキョンにそう尋ねた。よほど嘘をつこうかと迷った末、キョンは結局ほんとうのことを喋った。人の手紙を盗み見ることへの罪悪感とは、結構大きなものだ。
「……すみません、手紙を、古泉ん家で見てしまいました」
「そう」
 キョンが相当情けない表情をしていたのか、彼を一瞥した森さんはくすくすと笑いだした。おもしろいものを見た、といったような体で。
「別に構わないわ。あれはわたし一人で書いたものではないし、古泉もそれは承知しています」
「え、あ、そうなんすか」
「あれは『機関』のメンバーで相談しあって出したものです。近くにいたあなたなら分かるでしょう、あの頃古泉は、自分で思っているよりもずっと、精神的に参っていたものだから」
「はあ、なるほど」
「まあ、あの手紙が古泉にとって何か助けになったとは思えないけれど……彼は最後まで『機関』を信用してはいませんでしたから。でも、連絡はきたわ。三ヶ月ほど前だったかしら」
 三ヶ月前というと、ちょうど最初の手紙が届いた頃だ。つまり古泉は旅に出る前、森さんに初めて連絡を取ったということになる。
「どういった内容でしたか」
「それは秘密。というよりも、それをこれからあなたに伝えようと思います」
 そう言って森さんは立ち止まった。幹線道路に面した歩道沿い、そこはいわゆるビジネス街で、目の前には大きなビルがいくつも連なっている。そのなかの一つの入り口に立ち、森さんは鞄からカードを取り出す。
「ここです。入って」
 カードを差し込み、オートロックと思われる自動ドアを開け、森さんはキョンを建物のなかへと導いた。
 入った途端、独特の真新しい匂いが鼻をついた。それでここが建工直後なのだと分かる。森さんはまっすぐエレベーターへと歩を進め、キョンを促すと、最上階のボタンを押した。
「ここは『機関』の所有するビルです。今は名前が変わっていますけれどね。ただの株式会社です。マーケティングと調査が専門よ。あなたも来年就職のあてがなければ、面接に来るといいわ。新卒募集は毎年行っています」
 森さんは飄々とした口調でそんなことを言った。冗談なのか本気なのか、相変わらず本心の読めない人だ。
 しかし次のタイミングには、彼女はおもむろに真面目くさった表情を作り、キョンに強い視線を向けた。
「実は、あなたに会わせたい人がいます。それでここまで足を運んでもらいました」
 その言葉と、エレベーターの到着音が、同時に鳴りひびいた。

 通されたのは、ごくごくシンプルな応接室だった。室、といっても、ワンフロアの一部にしきりがつけられているだけの簡素なもので、そもそも会社自体、重厚な雰囲気は皆無だ。見た限りデスクは十にも満たず、全体的にこじんまりとした印象を与える。業務は終了しているようで、社員は森さんを除き誰もいなかった。
 森さんが、お盆にお茶をのせて戻ってくる頃には、キョンはすっかり緊張が抜けきっていた。大学生の身分では、一般の会社に足を踏み入れることなどまずないものだから、そのアウェー感にキョンは、実は端からがちがちになっていたのだ。
「お待たせしてごめんなさい。会わせたい方も、もうすぐここに来られます」
 淹れてもらった日本茶をすすりながら、キョンはもう一度フロアを見渡す。せっかくだからほんとうに、就職が決まらなかった際にはここに入れてもらおうか、などと考えていたところだった。
「遅れてごめんなさい!」
 聞こえるはずのない音が聞こえると、反射的に人間はそれを空耳もしくは聞き違いと判断する。キョンも例にもれず、聞こえてきた声とともに現れた懐かしい姿に、しばらく固まったまま動けなくなった。
「あの、おひさしぶりです、キョンくん」
 そう口にする彼女は、キョンの知る姿よりも少しだけ大人びていて、しかしもう一方の姿にはまだ及ばない。
 大と小の中間、言うなれば、朝比奈さん(中)が、キョンの目の前にいた。
「えっと、あのう、あたしのこと、分かりますか?」
 ほうけてなにも言わないキョンに、朝比奈さんは念を押すようにそう訊いてきた。キョンはようやく、いびつな反応を返せるほどに頭を巡らせはじめた。
「も、もちろんですよ。ただ予想だにしてなかったもんで」
「うふ。ごめんなさい」
 朝比奈さんの後ろに立つ森さんは、すでにポーカーフェイスを気取ろうなどと一ミリたりとも思っていないようで、おかしそうに笑みをかみ殺している。
「朝比奈さん、こんなところまで来ていただいてありがとうございます」
「いえ、気になさらないでください。こちらには、頻繁に来ているんですよ」
「それで、あれは手に入りましたか?」
「ええ、問題ありません。寛容な協力者がいましたからね」
 二人の会話の徹頭徹尾、キョンには理解できない。二人は同時にキョンを見て、含み笑いを交わしあう具合だ。
「あの、こりゃいったどういうことでしょうね」
 キョンがたまらず二人に尋ねると、途端居住まいをただした森さんが、朝比奈さんに何かを促す仕草を見せた。それを受け朝比奈さんは承知したように頷き、それから真顔でキョンに向き直った。
「キョンくん。これ、古泉くんが現在住む家の鍵です」
 差し出された鍵を受け取るまでに、えらく時間がかかった。またまた予想斜め上の展開に、キョンの頭はついていくのが精一杯だ。なんとか思いついた質問を、キョンは返す。
「ええと、とりあえず訊きたいことは多々あるのですが、まずこれがどうしてここにあるのか、から伺いたいかな」
「はい、これはある方から借り受けた、彼の家のもう一つの鍵です。だから今鍵がなくて、古泉くんが困るってことはないの。それに貸してくれた人には、後々その鍵が返却されることになっています」
 朝比奈さんは、くちびるに人差し指をあて、内緒、のポーズをした。これ以上深く追求するなという意味なのだろう。そうこうしているうちに、後ろで森さんは小さなメモを用意して待っていた。
「そしてこれが古泉の家の住所ね」
 手渡されたメモにあるのは、見覚えのあるようなないような、しかし市名から、今まで住んでいた家と同じ市内にあることだけは分かった。
「古泉の寄越した連絡というのは、新居の賃貸契約の相談でした。契約の際、保証人がいるでしょう。それでわたしに依頼を。それと、あなたには言わないでほしいという、口止めね」
 結局言ってしまったけれど、と森さんは目を細めて悪戯げに笑う。
「なので古泉はあなたが来たと分かったら絶対に扉を開けないから、その鍵を使って勝手に入ってしまってください」
 森さんはさらりと、不法侵入を推奨するような発言をした。それ以前に、非合法に他人の家の鍵を手に入れている時点で問題は大ありだろうが。
「うまくいくように祈ってます」
 隣では、朝比奈さんがにっこりと笑ってお祈りのポーズ。
 たしかにキョンは望み通りの情報を手に入れた。それどころかアイテムまで同時入手だ。しかしさすがにここまでお膳立てされると、困惑のほうが勝る。
 それに、ほんとうに古泉に会いにいってもいいものなのか、今更及び腰になる部分もあった。
 それを見越してのことか、森さんは何か考えを巡らせる体を見せ、思い立ったように朝比奈さんの肩を叩いた。
「朝比奈さん、まだお時間はありますか?」
「は、はいっ、大丈夫です」
「じゃあ、しばらく彼とお話していってはどう? 久々の再会で、つもる話もあるでしょう。わたしはまだ仕事が残っているので、席を外します。どうぞごゆっくりなさってください」
 ぽかんとなった朝比奈さんとキョンを残し、森さんはすみやかに立ち去った。
 残された二人はしばらく顔を見合わせたまま固まっていた。長い時間をかけてどちらともなく口を開き、ようやく金縛りがとけたようにお互いに笑みを向けあう。
「あの、とりあえず、座りませんか」
 キョンは隣の椅子をひいて、朝比奈さんを座らせる。はにかみながら彼女は腰を下ろし、あらためてキョンの顔をじっくりと覗き込んだ。
「あの、お元気でしたか?」
「ええ、朝比奈さんは?」
「あたしも、どうにかがんばってます。あれから少しは、禁則事項も減ったかなあ」
 昔を懐かしむように目を細めて、朝比奈さんは口元をゆるめた。どこか遠くを見るその視線の先を、キョンは無意識に追っていた。
「朝比奈さん、こっちには頻繁に来てるって、さっき言ってましたよね」
「はい」
「会いにきてくれればよかったのに」
 責めるつもりはまったくなかったが、キョンはつい語調を強めてしまう。さっと表情を曇らせた朝比奈さんを見て、キョンは内心、自分の発言に対し舌打ちをした。
「ごめんなさい、仕事で来ているので、なかなか自由に動くのは難しくて。そうでなくても今は涼宮さんが海外にいるでしょう。昔住んでいたあたりには、元の時代に戻って以来、一度も行けてないの」
「そう、ですよね。すみません」
 キョンの頭にはそんな謝罪の言葉しか浮かばなかった。何も言えず、気まずい沈黙が流れる。横並びに座る朝比奈さんの顔を盗み見ると、やはりキョンの知る彼女とはなんとなく違っていた。ただ幼く、弱々しいだけだった彼女の目には、今、強い光が宿っているように、キョンには見えた。きっとあれから努力して、いくらかは上の地位を手に入れたのだろう。朝比奈さん(大)にはまだ及ばずとも。
 朝比奈さんは気を取り直したように眉に力を込めると、改めてキョンを見やった。力強い笑みとともに。
「でも、こんなふうに、会おうと思えば会えます。一生会えないわけじゃないんです。だから、さびしいけど、かなしくないの」
 その笑顔は、ただのマスコットなんかではない、きちんと責任を背に背負っている者の、自信にあふれたものだった。彼女は元の時代でもがんばっている。それが分かっただけでも、よしとしなくてはならなかった。
「きっと長門さんとも、涼宮さんとも、古泉くんとも。あたしたちは、つながっています」
 あの日、電話越しのハルヒと同じことを、朝比奈さんは言った。あのときは素直に受け止められなかった「つながっている」という言葉が、今のキョンには自然と理解できた。とても素直に、するりと入ってきたのだ。
「そうですね、そうだと思います」
「ね、」
 首をちょこんと傾げたかわいらしいポーズで、朝比奈さんは頷いた。こういう愛らしいところは、まったく変わっていない。近頃すっかり一人でいるのが板についていたキョンにとっては、少しだけ人恋しさを思い出させる仕草だった。
 彼女はふと腕時計に目をやる。再び顔をあげたとき、そこにはさびしげな表情が浮かんでいた。
「もう行かなきゃ」
「そうですか」
「キョンくん、お元気で」
「朝比奈さんも」
「古泉くんにも、よろしくね」
「ええ。朝比奈さんに会えたこと、自慢しておきますよ」
 朝比奈さんはおかしそうにくすくす笑いをもらし、一息つくと立ち上がった。
「それじゃあ」
 キョンもあわててそれに続き、彼女の前に右手を差し出す。彼女は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに合点がいったようで、何も言わずにその手を握り返した。
「また」
「またね」
 最後まで二人は、「さようなら」を口にしなかった。

 キョンの胸ポケットに収まる鍵は、二つになった。朝比奈さんから受け取った鍵には、小さな鈴がついている。紫色をした鈴は、どこかの神社のお守りなのだろう。絵馬をかたちどった金色の飾りが一緒にぶら下がっていた。
 数グラムのアルミでできたそれは、なんてことはない、重荷にもならないものだ。
 キョンは手渡されたメモから、とりあえずだいたいの位置を掴もうと、住所を携帯の地図サイトで検索した。すぐに表示された画像に見える駅名に、キョンは思わず目を見開き、そうして嘆息した。
「おいおい、古泉よ……」
 隠れるつもりならもっと遠くにいけよ。キョンは心の中で思い切り突っ込みをいれる。
 そこはキョンのよく知る駅で、今も頻繁に乗り降りする、古泉の家の最寄り駅であった。
 気を取り直し、キョンは地図を目で追う。いつも通る目抜き通りを越え、三つ目の交差点を右折。まっすぐ行って右手にある路地を曲がり——。
「……おい、」
 そこでキョンは言葉を失い、気づいたときにはダッシュで駆け出していた。




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