onsa 1-その手の体温


 十年後に自分が死んでしまっているなんて、どうやって想像できる?でもどうやらおれは十年後、死んでいるらしい。
 獄寺君はさっきから、悲壮という言葉がぴったりといった顔でおれと、山本を交互に見ている。
 ボンゴレのアジトらしき場所は、変なところだった。無機質で良く分からない機械やらCGみたいな光線やらがそこかしこに点在していて、まるで映画の中に飛び込んだみたいだ。現実感は全く湧かなくて、多分長い夢でも見ているんじゃないかと思う。
 十年後の山本は今の山本をそのまんまビッグライトで大きくしたみたいに、サイズ以外は全くといっていいほど変わっていない。でも時々目つきだけは変に鋭くなって、十年という歳月を感じさせる。
「マフィアなんだ……」
 おれの呟きに反応して、山本がこちらを見遣る。抱え込んだ刀は、この間の戦いで彼の父から手に入れたそれと同じものだろうか。大きなソファが目の前にあるというのに、おれ達三人は冷たいリノリウムの床に円を作って座り込んでいた。
「そーだな、マフィアだ」
 山本は聞いているこちらが気の抜けそうな、あっけらかんとした声で言う。そんな山本を睨みつけて、獄寺君はものすごく不機嫌そうな低い声で尋ねた。
「……てめ、なんでマフィアになってんだよ」
「なんでっつってもなあ、付き合い?」
 獄寺君の眉間のしわが、一気に四、五本増えた。ああ、まずい、また山本を殴りつけてしまうかも、おれはそう思って、わざと会話を遮るように口を挟む。
「ね、ねえ、十年後のおれ、ほんとに死んじゃってんの?」
 言ってからすぐ、しまった、と後悔に顔を歪めた。獄寺君の方を見ると、やっぱりさっきの数倍しわが増えて、その上、人を殺しそうな目つきになっている。おれはしどろもどろで獄寺君を宥めようとしたが、結局どうしていいのか分からずに、振り続けた両手だけが空しく宙を切っていた。
「いや、えっとあの」
「……なあツナ、お前は怖くないのか?十年後死んじまってるかもしれねえってのに」
 山本の今よりもずっと大きな手のひらが、おれの頭を軽く撫でる。まるで夢みたいなこの世界で、彼の体温だけがこの場所を現実だと物語っている。それでも、まるで実感はない。山本の手の感触が、十年前とあまりにも変わっていないからだ。
「……分かんないよ。確かに怖いけどさ、でもおれ今生きてるんだもん。幾ら十年後に死んでるって言われても、なんも実感できないよ」
 おれの言葉を聞いて、山本はほっとしたように笑みを浮かべた。崩れきらない表情は固く、おれの幾らかの不安はおれの手を少しだけ冷たくしているけれど、フィクションのような自分の死とこの場所よりも、山本の温かい手のひらの方がずっと、今のおれを形作っている。
 おれは横に座る獄寺君を見遣った。突然おれの顔が向いたものだから、彼の肩が驚いたように竦められる。
「獄寺君も。なんか不吉だからそんなに怒んないでよ。とりあえず今のおれは生きてるんだしさあ」
 そう言って笑いかけたら、面白いくらい彼の全身から力が抜けていったのが分かった。引きつっていた表情も、少し柔らかくなった。おれは彼の手を取って、強く握りしめる。それは随分と冷えきっていて、彼の極度の緊張がこちらにも伝わってきた。
「ほら、おれの手、ちょっと冷えちゃってるけど、でもあったかいでしょ。あったかいとさ、安心するよね……」
 片方の手を獄寺君の手に、もう片方の手を山本の手に。おれを真ん中にして、手をつなぎ合う。両手から人の体温を感じられて、おれは小さな頃、両親に挟まれて手をつないで歩いた記憶を思い出した。生きているあかしの温もり。お気に入りの毛布にくるまれているような安心感。
 二人とも、すっかり肩の力が抜けて、気の抜けたような表情でおれを見ている。山本が欠伸をしたら、まるで伝染したようにおれと、獄寺君もそれに続いた。
「ああなんか、ほっとしたら、眠くなってきた……」
「そうっすね……そういや疲れた」
「俺も」

 そこからの記憶は全くない。電池が切れたように何もかもが消え去ったみたいだった。もしかして死ぬ瞬間ていうのはこんな感じなのだろうか、とおれは眠りにつく瞬間を垣間みた。

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